火ノ丸相撲 25巻 感想 草薙の横綱相撲と鬼丸の横綱相撲考察
久世草介。四股名は草薙。196cm,167kg。
25巻現在、19歳で大関の地位にいる力士。
この力士は、火ノ丸相撲という作品における、横綱大和国の息子であり、横綱の正統後継者と言われていた。その久世は、地方予選、高校IH団体戦決勝で火ノ丸と対戦し、その度に互いに気付きをもたらしあっていた存在。
そして舞台は大相撲。大関となった草薙と、前頭の鬼丸。鬼丸が帰ってきたことを喜ぶ草薙は、鬼丸は今も、『真っ向勝負="大和国の"横綱相撲』を小さい体で貫いていると思っていたが、実際には八艘飛びに足取りと、小兵の技を繰り出しており、そんな鬼丸に、失望していた。
かつて、真っ向勝負を「死んでも捨てねぇ」と言った火ノ丸が、今ではその相撲を捨てたと憤る草薙に、愛を知って変わった、鬼丸なりの横綱相撲で挑む鬼丸。
6日目、草薙-鬼丸、注目の一番収録の25巻感想。
今回は草薙と鬼丸編。
右上手さえ取れれば一撃必殺の草薙。
何故そこまで右上手にこだわるのか。それは、草薙にとっての横綱相撲は、父親、大和国の中にあるから。大和国の右上手は、天命の型。
この25巻で草薙は、
IH団体決勝で僕に勝った君はもういない。
今の君は…あんなものは横綱相撲ではない…!
僕にはもう君がわからない…
昨日の取り組みは…ただの小兵の相撲じゃないか…!
それでも君は 優勝も横綱も諦めないと言う…
という台詞を残している。
以上の台詞からも分かるように、草薙は鬼丸の変わり様にかなり混乱している。それは、草薙の中に、絶対ぶれない横綱の、理想の像があるから。草薙のいう横綱相撲とは、大和国。
「真正面から相手の全てを受け切り勝つ」
「相手に何もさせず一方的に勝つ」
「強者として【格】の違いを見せつける」
相手によってやる事を変えたりはしない…大和国は…
横綱は…ぶれない
「横綱」とは土俵深くに値を張る幹太い神木だ
横綱が宙を跳ねるなよ…潮君…
…正に、大和国になるのが、草薙の横綱相撲と言える。自分の中に信念、明確な像がある草薙が強いのは当然であり、故に草薙が、自身と同じ道…横綱への、大和国への歩んでいると信じこんでいた鬼丸に対し憤るのは当然だなと。
ただ、鬼丸も草薙と同じく、大和国の相撲=真っ向勝負=横綱相撲と信じている、これはあくまで草薙が思い込んでいただけなのだと思う。
実際作中で火ノ丸は、大和国になりたい、とは言っておらず、むしろ否定している。
草薙はただ一人、横綱=大和国と、一人しか思い浮かばなかったからこそ、同じ横綱を目指すライバルである火ノ丸も、横綱、つまりは大和国を目指していると思ったのだろう。だが、横綱は何も一人ではない。実際作中には、刃皇という横綱もいる。それにそもそも、横綱相撲とは、己の生き方のこと。大和国の相撲は、生き様は真っ向勝負だった。
そして、鬼丸にとっての生き様とは、真っ向勝負だった。ただ、それだけなのである。
鬼丸の生き様、真っ向勝負は大和国の信念、生き方と一致していた。故に、鬼丸は真っ向勝負の相撲=大和国の相撲。大和国の相撲=横綱相撲。つまりは、真っ向勝負の相撲=大和国の相撲を、鬼丸は目指しているはず。という結論に、草薙は至った。それに尽きる。
ただ、生き様は同じでも、鬼丸と大和国、草薙の違いは、【体】。圧倒的なフィジカルの差が、鬼丸の真っ向勝負の多様性に繋がった。
真っ向勝負という生き様を貫くために、鬼丸が技に工夫を凝らすのは、百千夜叉堕を身に付けたときからもわかること。
そして何より、火ノ丸の信念は、始めから一貫してぶれていない。
火ノ丸は真っ向勝負を諦めてはいない。真っ向勝負"のみ"から、真っ向勝負を活かすための選択肢としての張り手、八艘飛び。これも鬼丸なりの横綱相撲。何より、最後まで諦め悪く食らいついて挑み続け、己の人生全てを活かして土俵に立つのが鬼丸の相撲。生きてきて得たものを相撲に落とし込むのだ。
常に変わり続ける鬼丸と、変わらぬ、ただ1つの、理想の横綱相撲を目指す草薙。しかしお互い真っ向勝負だけは変わらない。その両者の取り組みの結末は、次の26巻で。本誌で読んだが、改めて単行本として発売され読むのが楽しみだ。